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【新海誠の文学世界】――過去4作の小説で表現された「大丈夫」という言葉の存在/②『小説 言の葉の庭』

2022年9月7日

  •  世界中のあらゆる人と人の間で起こっているコミュニケーションの本質にあるものは、「大丈夫」を送り合うことではないだろうか。おもに言葉で、それから表情や態度で、「私は大丈夫」「あなたも大丈夫」と励まし合うことで、本当は「大丈夫」ではなかったりする日常生活の礎を築こうとしているのではないか。アニメーション監督である新海誠はみずからの手で、最新作『すずめの戸締まり』の前に4作品を小説化してきた。この4つの小説には、重要な場面で「大丈夫」が顔を出す。その一語の表現の仕方に注目しながら、本稿では『小説 言の葉の庭』(新海誠/KADOKAWA)をレビューしていく。


    小説 言の葉の庭
    『小説 言の葉の庭』(新海誠/KADOKAWA)

     小説的マジックがさまざまに振り掛けられた一作だ。元は46分間のアニメーションだったが、小説はなんと400ページものボリュームになっている。アニメから引き継いだバリエーション豊富な「雨」の表現は小説でも健在で、物語の着想のきっかけとなった『万葉集』など文学作品からの引用もふんだんだ。しかし、何よりボリュームアップしているのは、群像劇へと変貌したドラマだ。

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