『宙わたる教室』原作・伊与原新の直木賞受賞作『藍を継ぐ海』。とほうもない数のがれきが残された空き家…そのワケとは【書評】
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地質学者の女性がフィールドワークに訪れた島で、窯焼きに使われるある土を探している男に出会う……という、あらすじだけを聞くと、なんだか堅苦しい話のように感じられるかもしれない。不思議である。火山や隕石、宇宙といった言葉には、多くの人が聞くだけでわくわくさせられるようなロマンがあるのに、それを知るための科学はなんだか難しそうで敬遠してしまう。でも、表裏一体の科学とロマンを同時に味わってこそ、物語はふくよかに広がっていくのだと、NHKドラマ『宙わたる教室』の原作者・伊与原新さんの直木賞受賞作『藍を継ぐ海』(新潮社)は描き出してくれる。
冒頭のあらすじは本作に収録されている一作目の短編「夢化けの島」のもの。舞台は、山口県の見島。萩焼に使われたという伝説の土を探し求めるあやしげな男に、なりゆきで同行することになった地質学者の歩美は、「科学って、何でもわかるんだな」と言われてこう答える。「まだまだわかんないことだらけですよ。それに、今わかっていることだって、たくさんの研究者が長い時間をかけて、ちょっとずつ明らかにしてきたんです」。