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夏川草介 「京都は"生と死"が日常に溶け込んでいる」。『神様のカルテ』著者が京都を舞台に小説を書こうと決めた理由【インタビュー】

  • 累計340万部のベストセラー「神様のカルテ」(小学館)シリーズの著者で、現役医師として命と向き合い続ける夏川草介さん。2023年に刊行された『スピノザの診療室』(水鈴社)が第12回京都本大賞を受賞した。京都の日常の風景と共に、そこにある命を描いた物語で、続編および映画化も決定している話題作だ。


    ダ・ヴィンチWebでは、京都本大賞の受賞を記念して、夏川さんへインタビューを実施。作品に込めた思いや、作品が生まれるまで、そして京都を舞台にした理由を伺った。


    物語とシンクロした京都の日常に溶けこんだ死生観



    ――夏川さんが物語を生み出すとき、「人よりも先に舞台となる場所が決まる、そうでなければ動き出さない」というお話をいろんなインタビューでされていますが、『スピノザの診療室』の舞台を京都にしたことで描けたものというのはあるのでしょうか。


    夏川草介(以下、夏川) 存外、町の歴史や根づいた行事が、物語とシンクロしてくれたなと思っています。大阪・高槻市の出身である私にとって、京都は予備校などに通ったなじみのある場所。舞台に選んだことに、それ以上の理由はなかったのですが、たとえば大文字であったり六道まいりであったり、お盆の時期になると聞こえてくる特定の言葉がいくつかあり、「ああ、ご先祖さんが帰ってくる時期か」「そろそろ、あちらにお戻りになるのか」と気づかされる。日常に溶けこんだその感覚が、人の命や幸福というものをテーマにした本作のイメージとうまく重なってくれたと、書き終えたあとに気づきました。

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