●香典の表書きを薄墨で書くのはなぜ
「香典(香奠)」は、葬儀の際に喪家に贈られる金銭や物品のことです。「典(奠)」には供えるという意味があり、「お香」を供えることから、死者への供物を指しています。また品物だけでなく現金もよしとされるのは、急に訪れる葬儀の出費を助ける「相互扶助」の意味があります。
仏式の不祝儀袋の表書きは「御香典」だけではありません。通夜・葬儀に持参する場合は「御霊前」、四十九日の法要以降は「御仏前」と書くのが一般的です。ただし宗派(浄土真宗)によっては葬儀から「御仏前」の場合もあります。また神式の場合は「御玉串料」「御榊料」。キリスト教式は「御花料」「御ミサ料」などとします。また、宗教に応じて不祝儀袋の形も違うので注意しましょう。
表書きの水引の上には「御霊前」などの名目を、下には氏名を楷書で丁寧に書きます。そして薄墨で書くのがならわしとされます。一説によれば「涙で墨が薄くなったから」などと言われますが、筆ペンなどがなく、毛筆で書いていた昔は、急いで墨を摺って書いた様子が感じられるからのようにも思います。また実際に濃い墨で書いた場合と、薄墨で書いた場合を比べると、悲しみの気持ちが伝わるのは、儚い印象に感じる薄墨の方でしょう。その時々の気持ちを、その状態にあわせて表現することにこだわる日本人のデリケートな感性が、そんなところにも表れているように思います。