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事故の加害者と被害者。ひとつ屋根の下で暮らす男女は、支えあいながら傷を乗り越えていく【書評】

  • 同居中のハプニングにキュンとして始まる恋。そんな「同居生活から始まるラブコメディ」に馴染みがある方も多いだろう。しかし本作は、「男女の同居」というテーマのなかでもひときわ異彩を放っている。


    深い傷を抱えた男女が寄り添いながら暮らす『木洩れ日のひと』(川端志季/祥伝社)は、愛や人生の光と影を描いたヒューマンラブストーリーだ。


    大人気アイドルの烏墨真弘(うすみまひろ)は、女子高生が乗っていたバイクと接触し昏睡状態に。バイクを運転していたのは参議院議員を父に持つ、政治家一家の長女・白瀬皓子(しらせこうこ)だった。皓子は事故の後に真弘の家を訪れ、彼の祖母と共に眠り続ける真弘を介護することを決める。


    罪の意識を強く持ち、償いのため生きる皓子。10年の月日が流れ祖母が亡くなった直後、真弘が奇跡的に目を覚ます。そして、ひとつ屋根の下で家族でも恋人でも友人でもない、加害者と被害者の不思議な同居生活が始まる。


    物語が進むにつれ、ふたりの抱えた傷や過去、家庭の事情が段々と明らかになっていく。皓子は幼い頃から「政治家の娘」として本心を押し殺してきたため、自分の本心がわからない。また真弘も、人気アイドルとして多くの人に愛されていた裏で、母親のいない寂しさをずっと抱きながら生きていた。家族との関係で孤独感を抱え生きてきた両者は、共に寄り添いながら傷を癒し、絆を深めていく。

    加害者と被害者の物語、と聞くと重々しい内容をイメージする方もいるかもしれない。だが本作は、ひたすらに優しく静謐な空気のなかで、ゆったりと進んでいく。物語の根底にあるのは、お互いの幸せを心から願うふたりの愛情だ。さまざまな真実や想いが明らかになり、より入り組んでいく展開から今後も目を離すことができない。


    海のように深く優しい、唯一無二の世界観。ぜひ手に取ってみてほしい。


    文=ネゴト / fumi


    ©川端志季/祥伝社 FEEL COMICS

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