学校へ行く? 行かない? 悩める小学生の決断は。住人たちの成長を描く異色の銭湯シェアハウス群像劇【書評】

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大人になると、他者と深く関わる居場所を見つけるのは容易ではない。しかし『メゾン刻の湯 上』『メゾン刻の湯 下』(小野美由紀:原作、瀬田一乃:漫画/KADOKAWA)では、若者たちが他者と支え合い、成長していく姿が描かれる。
内定がないまま大学を卒業し、社会から取り残されたように感じている主人公・マヒコ。マヒコは築100年の銭湯「刻の湯」の経営者・アキラと出会い、「刻の湯」に住み込みで働くことになる。同じように「刻の湯」で働くメンバーとシェアハウスをしながら、マヒコは彼らと共に成長していく。
さまざまな背景を持つ者が集まり、多様性と自主性を認めるのが「メゾン・刻の湯」だ。彼らは必要な誰かのために手を差し伸べ、助け、支え合う。
ある日から共に暮らすことになった、小学生のリョータ。リョータは「刻の湯」管理人・戸塚さんの孫だ。リョータはクラスメイトから嫌がらせを受け、傷ついていた。戸塚さんはリョータに、学校へ行くことも行かないことも自分で選んでほしい、と説く。今自分が何を選ぶべきか、それを判断できる賢さを身につけてほしいと願っているからだ。
リョータがどんな道を選んだのか、それはぜひ本編で確かめてみてほしい。リョータを見守る住人たちの眼差しが温かく、誰かと支え合って生きていくことの素晴らしさに胸が震えるはずだ。
大人になると他者と深く関わる機会は減る。しかし本作で描かれる、誰かと生活を共にし支え合う姿には、こうありたいと願う理想が詰め込まれている。そして、自分ではない誰かのためにと行動することが、自分の居場所を作るきっかけになることを教えてくれる。
本作はきっと、周囲への思いやりを深めるきっかけとなるはずだ。
文=ネゴト / 那智
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