【2025年本屋大賞ノミネート作レビュー】銀座の歩行者天国に「人魚」を探す「王子」が出没! SNSのトレンドに…。青山美智子『人魚が逃げた』

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青山美智子さんの小説は、人生に脇役など存在しないのだと思い出させてくれる。もちろん自分の人生の主役は自分だけど、すれ違う見知らぬ人を含めて誰もが顔を持った個人であり、自分とは異なる意志と感情を持って生きていることを忘れちゃいけないんだなということに、はっとさせられる。
本屋大賞にノミネートされた本作『人魚が逃げた』(PHP研究所)をはじめ、語り手を変えた連作短編集の形式で物語が紡がれることが多いのも、青山さんの「一人ひとり」に対するまなざしが強いからだろう。だから私たちは読みながら、はっとさせられながらも安心する。ちっぽけで、なんにも持たないように思える自分も、誰かの想いと繋がって生きている限り、決して置いてきぼりにされることなどないのだと、信じることができるから。
銀座の歩行者天国で、バラエティ番組のロケでインタビューされた男。ヨーロッパ貴族のような衣装を身にまとい、頭には王冠をのっけている。まごうことなき「王子」はカメラに向かって「僕の人魚が逃げてしまった」と悲しげに言う。見つけ出すタイムリミットは5時まで、とも。王子の存在は瞬く間にSNSを駆け巡り、「#人魚が逃げた」がトレンド入り。いったい彼は何者で、人魚とは誰のことなのか。謎にわきたつ銀座で、偶然王子と同じ場所に居合わせた5人が本作の語り手である。