『ハリー・ポッター』の出版社が新たなファンタジー童話を刊行! お話の力で魔法のように子どもたちを魅了する短編集【書評】

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マグルスウィックの森。それは、イングランドの北東部にある、紫のヒースの花で覆われた場所。近くには崩れかけた小さな修道院や、羊がいる草原があり、清らかな水をたたえた深い川も流れている。そんな場所を舞台にした物語を、「ハリー・ポッター」シリーズで知られるブルームズベリー社が新たに刊行した、と聞いたらそれだけで胸をときめかせてしまう。その物語の名前は、『マグルスウィックの森のおはなし』(ヴィッキー・カウイー:作、チャーリー・マッケジー:絵、小宮由:訳/主婦の友社)。ただし、登場するのは魔法使いではなく、お話の力で魔法のように子どもたちを魅了し、夢の世界に誘ってくれるおばあさんである。
おばあさんは、5人の子どもたちがベッドに入ると、それぞれにマグルスウィックの森や、その周辺にまつわる不思議なお話をしてくれる。赤い帽子をかぶってひげをはやしたノーム(小人のような存在)や動物たちと一緒に森を散歩して、どんぐりのスツールと赤いキノコのテーブルで午後のお茶を楽しんだ女の子のこと。どんな願い事もかなうらしいコフキガネを拾った男の子のこと。森のはずれにある古びたスニッティントン屋敷と、そこに棲みついた小さなはずかしがりやの妖精。マグルスウィックの砦に住んでいた、もぐらに戦争をしかけたヒュー少佐。そして満月の晩、スピノサスモモの茂みで催される舞踏会に招かれた森の妖精ニンフと、おそろしい馬の精霊・ケルピー。