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直木賞作家・桜木紫乃が自身の父親をモデルに描いた1冊。「親の生き方を肯定するのは、子どものたいせつな仕事かなって」《インタビュー》

  • ラブホテルを舞台にした連作短編集『ホテルローヤル』(集英社文庫)で第149回直木賞を受賞した桜木紫乃さん。2025年3月発売の最新刊『人生劇場』(徳間書店)では、自身の父をモデルに、北海道に生きる一人の男とその家族の光と闇を描き切った。2011年に単行本が発売された『ラブレス』(新潮文庫)では母方の親族をモデルに女の人生を描いた桜木さんが、父をモデルにした男の人生を描いた心境とは。お話をうかがった。


    ――〈海は本当は青いものらしい。しかし猛夫がいま坂の上から見ている室蘭港の海は、日本軍か、それとも日鐵様の偉い人が染めろよと命じたのか、いつもいつも赤い色をしていた。〉という冒頭の一文がとても印象的です。この情景は、どこから生まれたのでしょう。


    桜木紫乃さん(以下、桜木) 何もかもが赤かった、と室蘭に住んでいた方から聞いたことがあったんです。明治42年(1909)に日鐵の製鉄所が創業し、鉄のまちとして栄えてきた室蘭は、高炉から吐き出される鉄の粒子によって、空が赤く染まっていた。だとしたら、きっと海も赤く染まっていたのではないか、と想像したんです。昭和13年(1938)に生まれた猛夫の人生をたどるならば、その町から始めなければいけないなあ、とも。

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