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“変わり百物語”の先に待っていたものとは。宮部みゆき原作の江戸怪奇譚集、その壮大な結末を見届けよ【書評】

  • ミステリーから時代小説まで幅広いジャンルの小説を手がけ、これまでにも数多くの人気作を生み出している小説家・宮部みゆき氏。彼女が手がけ、長年大勢に愛され続けた1作を漫画家・宮本福助氏がコミカライズ。それが『三島屋変調百物語 』(宮本福助:漫画、宮部みゆき:原作/KADOKAWA)だ。


    舞台は江戸時代。ある事件を機に心を閉ざしてしまった17歳の少女・おちかを主人公とし、縁あって彼女へと語られるさまざまな物語を、本作はオムニバス形式で描いている。


    小説から漫画になっても変わらない、本作最大の魅力。それはやはり、多彩なバックボーンを抱える人々が、おちかへ語る不思議で怪しい物語の数々と、それにまつわるヒューマンドラマだろう。


    明瞭な勧善懲悪のストーリーは、時代を超えて多くの人に好まれる。だが現実は往々にして、誰かひとりを圧倒的な悪者と決めつけることはできない。本作の最たる魅力は主人公のおちかをはじめ、百物語として語られるすべての出来事が、そんな「どうしようもなさ」に満ちている点にある。

    やりきれなさや無常感。小説で文字を追っているだけでも切々と伝わってくるそれらの感情が、漫画として実際に人々の表情や会話の間が目に見えて描かれることで、より鮮やかに浮かび上がってくる。そういった点も、コミカライズ版の大きな見どころだ。


    終盤には、これまでおちかが対峙してきた複数の物語が、点と点を結ぶようにひとつの物語へと集約されていく。大勢の複雑な胸中・心情へと真摯に向き合ってきたおちかが、最後に相対する物語とは。全4巻を読み終えた後にはどこかすっきりとした、そんな読後感を得られることだろう。


    文=ネゴト / 曽我美なつめ

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