老人役のために上下の歯を麻酔なしで10本抜いた!? 三國連太郎の役者人生や奔放な女性関係、壮絶な生い立ちを追う【書評】

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「昭和100年」にあたる今年は、昭和の再発見に注目があつまっている。昭和の名優たちの書籍がいろいろ新刊・復刊されているのも、そんな流れだろう。2013年に世を去った三國連太郎さんもそのひとり。4月14日に13回忌を迎える三國連太郎さんの、2020年に刊行された『三國連太郎、彷徨う魂へ』(宇都宮直子/文藝春秋)が文庫化された。
若い方には、三國さんといえば俳優・佐藤浩市さんの実父であり、同じく俳優の佐藤寛一郎さんの祖父といったほうが親しみがわくだろうか。あるいは西田敏行さんでお馴染みの『釣りバカ日誌』の名物社長・スーさんを思い出す方もいるだろう。だがリアル昭和世代にとっては、三國さんといえば自らの信念をまげずに役にのめり込む「役者バカ」であり、時に衝突も厭わない孤高の姿。さらに結婚は4回を数え、昭和の名女優・太地喜和子さんとの不倫など、奔放な女性関係を記憶している方もいるかもしれない。
本書はそんな三國さんご本人と三十年来のつきあいがあったというノンフィクション作家・エッセイストの宇都宮直子さんが、三國さんと折に触れて重ねた対話から編まれた一冊だ。最初は本にするつもりではなかったという二人の対話は、三國さんが亡くなる1年前の2012年まで、最後は病院の一室でも続けられた。宇都宮さんのあたたかな視線と硬質な文章は、静けさが似合う二人の対話の時間へと読者を誘い、役者の仕事、生い立ち、父母のこと、息子や孫について、性愛についてなど、さまざまに「役者・三國連太郎」の内面を浮き彫りにしていく。