伊坂幸太郎の魅力を全部乗せ!“未来を観る力”で、誰かを、自分を救えるか?読者も巻き込み物語を作りあげる小説『ペッパーズ・ゴースト』【書評】

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小説において「未来をみることのできる能力」は、目にする機会の多い設定ではないだろうか。その能力を使い問題解決に挑む、という流れまでがセットだとも感じる。そんな馴染みのある設定や流れも、伊坂幸太郎氏の手にかかればひと味もふた味も違うものになる。『ペッパーズ・ゴースト』(朝日新聞出版)を読み、そう感じた。本作は、2021年に発表された長編小説で、「伊坂氏の作家20周年超の集大成」と言われている。2024年12月には文庫版も刊行された。
物語の主人公は、過去の出来事に囚われている中学の国語教師・檀千郷。ある条件下で他者の未来を少しだけ観ることのできる、「先行上映」という能力をもつ。ある日、檀先生は生徒・布藤鞠子から自作小説の原稿を渡され、戸惑いながらも読みはじめる。また別の日には、先行上映により生徒・里見大地の危機を回避するのだが――。
本書は作中作である生徒の自作小説と、檀先生の話が交互に語られ進む。自作小説に登場するのは、猫を愛する二人組「ネコジゴハンター」の「ロシアンブル」と「アメショー」だ。彼らは、猫を虐待する様子をSNS上で配信していた「猫ゴロシ」の視聴者たちに復讐している。小説における作中作の扱いは多様だ。あらすじや存在のみにとどめる場合も多い。しかし本書では、登場人物やストーリーも緻密に作りこまれている。動物虐待の問題に向き合いつつ対照的な性格の二人の会話に、筆者も時折口もとを緩めながら読み進めた。