吉本ばななさんが、最新作『ヨシモトオノ』(文藝春秋)を上梓。本作はなんと吉本ばなな版「遠野物語」、つまり怪談集だ。日常のすぐ隣にある生と死の裂け目を、ホラーに魅了されてきたという吉本さんが大切に綴った13の短編たち。40年弱のキャリアを経て今、怪談を書こうと思った理由や、目に見えないものを通じて描きたかったことについて、吉本さんに聞いた。
不思議なことが起きて、世の中の見方が少し変わる瞬間を描いてきた
――怪談集の『ヨシモトオノ』を書こうと思われたきっかけは?
吉本ばなな(以下、吉本):還暦になったから、もう好きなことを書きたいな、と思ったんです(笑)。とはいえ創作だから自分のテーマは出したくて、そこの兼ね合いが難しかったですね。
――こうした目に見えない力や思いについてしっかり書きたいという気持ちはずっとあったんですか?
吉本:子どもの頃からホラー映画が好きで、大人になってからも目に見えないものに惹かれてきたから、小説家としての長いキャリアをそこに活かしたかったんですよね。でも私が急に中山市朗さんみたいなものを書くのも違うかなと思って(笑)。自分のスタイルはそのままに、そこに怪談を融合させたイメージです。
それに私の小説っていつも大きな出来事が起こるわけではなくて。新幹線が衝突したり、スパイが出てくることもない(笑)。その分、何か不思議なことが起きて一回転するっていう仕組みが必要な小説群だと思うから。不可解なことがあって、ちょっと世の中の見方が変わる瞬間っていうのは今までも書いてきましたけど、今回のようにストレートに打ち出したことはなかったですね。