親子関係に、これが正解だと言えるものはない。それでも、“親だから”、“子どもだから”と、どこかで期待してしまう気持ちは、きっと誰の心にも少なからずあるのだろう。
『僕はお父さんが好きじゃない』(まるたおかめ/KADOKAWA)は、父親から愛されていないと感じ苦しむ子ども・なつの視点を中心に、父や母の視点も交えながら、家族という関係の中で揺れ動く心の機微を描いた漫画だ。
子ども時代のなつにとって、父との記憶は、温かく楽しいものではなかった。遊んでほしくても、父はゲームばかり。ときには面倒くさがってクローゼットに隠れてしまうこともあった。妹ばかりを可愛がる姿に、「なぜ自分には愛情を向けてくれないのか」と悩み、戸惑い、幼い心は静かに傷ついていく。
淡々と綴られる語り口は一見ドライにも映るが、その奥には、「嫌い」という感情と同じくらい、「それでも愛されたかった」という深い願いが静かに息づいている。長い孤独の中で積み重なっていった葛藤。そしてその中にも、小さく灯り続けていた希望。抑えた表現だからこそ、にじみ出る想いが胸に迫ってくる。