ダ・ヴィンチWeb
  • 「ボカロ好きな人って陰キャが多いイメージなんですが皆さんのところではどうですか?」


    とあるインターネット掲示板に書き込まれたこの質問。


    「そんなことない!」と否定する意見もあれば「たしかにそうかも……」と自信なさげに肯定する意見など多くの反響が寄せられていました。


    たしかにボカロ曲はJ-POPに比べると、どちらかと言うとネガティブな歌詞が多い……気がする。そうした歌詞に日陰を好む人々が多く共感しているということだろうか。


    しかし、ボカロ曲の歌詞はネガティブだと先入観で決めつけていいものなのか!?


    日本のボカロ文化を牽引してきた存在である初音ミクも、今年2025年の夏で誕生から18年を迎える。


    新興ジャンルとはいえボカロ曲という音楽も、その中で様々な変遷を辿ってきたハズ。


    何事も先入観で語るのは良くない。


    本記事では、平成から元号の移行期となる直近約10年間で「ボカロ楽曲における歌詞の内容」がどのように変わってきたかを、計算機科学の視点から牽引してきた関西大学・山西良典教授にお話を伺ってきた。


    山西教授は計算機科学を応用して「トレーディングカードゲームにおける『切り札』の戦略の研究」「イラストの眼のハイライト位置に関する数学的な研究」といったエンタメ・ポップカルチャー分野の研究を数理的に分析するエキスパートだ。


    ボカロ曲における歌詞の近年の変遷傾向を、一般大衆曲(J-POP)の歌詞との違いについて数理的な根拠をもって語ってもらった。


    多くの人々がボカロ曲に対してうっすら感じている「ボカロ曲の歌詞って暗いよね」という印象は単なる先入観に過ぎないのか、ぜひ今回の調査結果を踏まえてアップデートしてみてほしい。


    取材・執筆:曽我美なつめ


    編集:トロピカル田畑


    話者:関西大学総合情報学部 教授 山西良典


    データ作成・分析:関西大学大学院総合情報学研究科 横井優 


    ■「ボカロ曲はネガティブな歌詞が多い」、そのイメージって本当?


    ──山西先生は、エンターテインメントやポップカルチャーにまつわるトピックを研究されていると聞いています。さっそく聞いてしまうのですがボカロ曲って平成から令和で歌詞の変化はあるんですか?


    山西:


    それがですね……ボカロ曲はJ-POPのような大衆音楽と比べて歌詞で歌われていること、つまりトピックには大きな変化がなく一貫して同じ内容を歌い続けています。


    ーーなんと、てっきりボカロジャンルの隆盛にあわせて変化があったのかもしれないと思っていましたが……。


    山西:


    そうですね。先に結論を言ってしまいましたが、順を追ってお話しますね。ボカロ曲の歌詞における傾向の経年変化や、大衆的な楽曲との歌詞傾向の違いについてお話できればと思います。


    まず今日のお話の大前提を説明すると、今回の調査対象は「2024年3月時点における、2003年~2023年の各年の再生数上位50曲、計550曲」となります。


    もちろん楽曲はすべて、VOCALOIDほか音声合成ソフト歌唱版がオリジナルとなるもののみ。つまりAdoさんの「うっせぇわ」などは今回集計対象外となりますね。


    ──「うっせぇわ」を対象外にしたとしても……ボカロ曲の歌詞は人のネガティブな面にスポットを当てたものが多い印象を持っています。


    山西:


    そうした印象は、どの視点からボカロ曲の歌詞を切り取るかで傾向や見え方はやや変わってきますね。



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