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歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理(角川ホラー文庫) 三津田信三/KADOKAWA


怪異の存在なんて、合理的な説明で、すべて否定できるはずだ。――いや、本当にそうだろうか。多くはそうかもしれないが、その一部にはきっとホンモノがいるのではないか。信じたくはないが、この世ならざるものが絶対紛れている。ホンモノの怪異はニセモノに囲まれながら、ひっそりと息を潜めている。


読めばそう思わずにいられなくなるのが、『歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理(角川ホラー文庫)』(三津田信三/KADOKAWA)。ホラー×ミステリーの名手、三津田信三氏による「刀城言耶」シリーズの姉妹本だ。本書は5編を収載した連作短編集だが、その主な舞台となるのは、刀城言耶が講師を務める大学の怪異民俗学研究室、通称「怪民研」。だが、肝心の刀城言耶は不在で、研究室の留守を任されている若い作家がこの物語の探偵役となる。そんなあらすじを知ると、シリーズのファンは「刀城は出てこないのか」と少し寂しく思うかもしれないし、シリーズを未読の人は「シリーズを読んでいないけれど楽しめるだろうか」と疑問に思うかもしれない。だが、そんな心配は無用。この本は「刀城言耶」シリーズとは違うゾクゾクを味わわせてくれる。シリーズの既読・未読を問わず、ホラーやミステリーを愛するすべての人におすすめできる1冊なのだ。


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