ひっそりと夜に開くパン屋さんを舞台にしたイラストコミック『空腹の心にひとくち』(526/KADOKAWA)。全編にわたってイラストだけで、セリフはひとことも登場しない。それなのに、人々の思い悩みや物語に込められた温かみが、人肌のように伝わってくるのはなぜだろうか。言葉がなくとも疲れた心を満たしてくれる優しさの詰まった、エピソードが綴られている。
仕事で終電を逃したサラリーマンや両親が不仲な大学生、キャラクターがうまく描けなくて苦悩する漫画家。異なる年代、異なる境遇でありながら、心のどこかにぽっかりと穴が空いた人々は、夜な夜な歩く道すがらに明かりの灯った小さなお店を見つける。
扉を開けてみると、そこには懐かしい空気が漂うパン屋さんがあった。ミステリアスな雰囲気を持つ女性店主の微笑みとおいしそうな香りにつられて、彼らはついついショーケースに並ぶパンに手を伸ばす。