「ホラー」と聞くと、血まみれの怪物や、理不尽な死を思い浮かべる人も多いだろう。けれど今の時代、人を震え上がらせる怖さは、そうしたわかりやすい恐怖だけではない。よくわからない他人の行動、無言の圧、日常に紛れた違和感――そうした「得体の知れなさ」も、現代を生きる私たちをじわじわと追い詰める。
恒川光太郎『化物園』(中央公論新社)は、まさにその“わからなさ”が引き起こす恐怖を描いた短編集だ。登場するのは、章ごとに異なる妖怪や怪異たち。一見バラバラに見えるが、読み進めるうちに、それらがすべて“同じ存在”の変化形であることがわかってくる。この化物がすさまじい悪事を行うのが主題、というわけではない。むしろ、時代も場所も違う人々の暮らしに、そっと溶け込むように現れる。そして、その身近さが、かえって読者を底冷えさせる。