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或る集落の● 矢樹純/講談社


『或る集落の●』(矢樹純/講談社)は、特定の土地にまつわる奇怪な体験談を集めたホラー短編集である。


伯父の家に引き取られ、青森県のP集落で暮らしていた姉。彼女の様子がおかしいという連絡を受けた主人公はP集落へ向かう。山奥の社のそばで再会した姉は、透き通るように青白い。彼女は痰が絡んだような割れた声でこう言った――「あの家(え)のわらしは、膨れで死ぬぞ」。


冒頭作『べらの社』から、ホラーとしての引力が凄まじい。因習ホラーだと事前に知って読んでいても、閉鎖的な村、薄暗い山道、青森弁の持つ響きといった要素群に、じわりと汗がにじむ。一作目から、日本的で湿度の高いホラーの魅力が強烈に伝わってくる。


そこから続く短編は、いずれもP集落に関連する物語である。『うず山の猿』、『がんべの兄弟』、『まるの童子』までが「P集落の話」として括られる連作短編で、色濃く集落の因習や怪奇現象が織り込まれている。読者は異なる時間軸で語られる事件や出来事を追いながら、集落にまつわる怪奇現象の全貌、その芯にあるものについて知っていくことになる。恐怖はもちろん、巧みに張り巡らされた伏線が明かされていくミステリー的な快感も味わえるのが本書の魅力だ。


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