2025年6月、『カラマーゾフの兄弟』(1・2巻)が中公文庫から刊行され、7月に第3巻、そして8月発売の第4巻で完結した。『カラマーゾフの兄弟』はロシアの文豪ドストエフスキーの最後の作品として文学史に名を刻む古典の名作だが、もうすでにいくつかの出版社から文庫が発売となっているこのタイトルを、中公文庫はなぜあえて文庫化したのか?
本稿では中公文庫版『カラマーゾフの兄弟』を担当した中央公論新社文庫編集局の名嘉真春紀氏に、文庫化の経緯と本作の魅力について話を聞いた。
『カラマーゾフの兄弟』担当はミステリ好き編集者
――『カラマーゾフの兄弟』のお話の前に、本書を担当された名嘉真さんはこれまでどのような作品を担当されてきたのでしょうか。
名嘉真春紀さん(以下、名嘉真) 私はもともとミステリが好きなんですが、これまでミステリ作品などを担当してきて、絶版になっていて現在ではプレミア価格になってしまっている昔の作品を知る機会がありました。せっかく文庫編集部にいるなら、そういった人気があるのにいまだ復刊されていない作品をやってみたいと思って、最初に担当したのがチェーホフの『狩場の悲劇』(原卓也:訳)という作品でした。チェーホフはロシア文学の人で一般的には演劇の人と言われていますが、この作品はチェーホフ唯一の長編ミステリです。
ミステリではほかにも昨年夏にドゥーセの『スミルノ博士の日記』(宇野利泰:訳)という作品を復刊しました。ほとんどの人はタイトルも作家名も知らないかもしれませんが、かつては講談社系列の東都書房から「世界推理小説大系」という全集に収録されていたものでしか読めない作品でした。これを文庫化したところミステリマニアの人たちからの評判がよくて、現在では4刷までいっています。
――文庫の評判はどのように知るのですか。
名嘉真 中公文庫のXアカウントでこういう作品を復刊しますというポストをすると、「あれが!」みたいな反応があるんです。そうこうしていると「あれを復刊してほしい」といった復刊リクエストをちょくちょくいただくようになりました。