ダ・ヴィンチWeb

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年9月号からの転載です。



本読みの達人、ダ・ヴィンチBOOK Watchersがあらゆるジャンルの新刊本から選りすぐりの8冊をご紹介。あなたの気になる一冊はどれですか。


*今月は前田裕太さんがお休みのため、上田航平さんにご執筆いただいています。


イラスト=千野エー


[読得指数]★★★★★


この本を読んで味わえる気分、およびオトクなポイント。



村井理子


むらい・りこ●1970年生まれ、静岡県出身。翻訳家、エッセイスト。著書に『村井さんちの生活』『兄の終い』『ある翻訳家の取り憑かれた日常』など。訳書としては『ゼロからトースターを作ってみた結果』『家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法』ほか。


『愛がぼろぼろ』 (爪 切男/中央公論新社)1870円(税込)


夏にぴったりの青春小説


父に殴られて育った小学生の主人公・千川広海と、同じく父に殴られ育った北斗と南の兄妹が、町外れに住む変わり者のおじさん「ゴブリン」と交流し、成長していく様子がユーモアとペーソスたっぷりに綴られた作品。むせ返るような夏の熱気、大人に殴られる痛み、子どもの頰を流れる涙の温度が、ありありと伝わってくる。互いを支え合う子どもたちの友情が微笑ましく、そして健気だ。ゴブリンと交流するなかで成長していく主人公だが、眩しい夏を過ごした彼に対する父からの暴力は日を追うごとに熾烈さを増し、死を意識するまで追いつめられることに。そんな、親から殴られながら育つ小学生を救おうと奮闘する、親以外の大人の優しさが本当に沁みる。幸せとは、受け入れ、そして受け入れられること。生きていくこととは、出会いを繰り返すこと。手を差し伸べる方法はいくらでもある。そんなことを、しみじみ感じさせてくれた一冊だった。


文芸/フィクション


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