新しい草履を買いに行かなくちゃ/きもの再入門⑩|山内マリコ
2024年4月25日
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新しい草履を買いに行かなくちゃ
一度は情熱を傾けたきものから、すっかり遠ざかってしまっていた。数え上げればきりのないその要因の一つに、草履があった。
わたしが持っているきものの履き物は、三つだ。一つは「花魁なのかな?」というような、朱塗りのぽっくり。もう一つは底がぼろぼろに削れて久しい下駄。そしていちばんまともに稼働しているのが、鼻緒にビーズがあしらわれた、黒いエナメル草履。
さすがに下駄はもうだめになっているので処分し、ぽっくりは下駄箱の奥深くに仕舞い込んでいる。仕事できものを着るときは、エナメル草履に頼ってきた。つまり、いつも同じ草履を履いていた。
いつも同じ草履……。このことはわたしの中のきもの熱を、文字通り、足元から冷ましていた。なにしろ十年以上前に買ったものなので、耐用年数的にも心配である。いつ鼻緒がブチッと切れるかわからず、不安でならないまま、でもこれしかないので、惰性で履いていた。