※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年11月号からの転載です。
新海誠さんが『秒速5センチメートル』を制作したのと同じ年齢で、奥山さんは実写映画の監督に挑むことになった。アニメーションの魂を引き継ぎながら、実写でしか生み出すことのできない情景を、どのように探っていったのか。
実写化にあたって奥山さんは、原作であるアニメーション映画を丁寧に分解し、シーンの一つひとつにこめられた意味を検証し、冊子にまとめたものをキャストを含めたスタッフ全員に共有したという。
「距離と時間というのはいかようにも伸縮するんだということを、改めてこの作品に向き合ったときに感じたんですよね。たとえば、中学生の貴樹が明里の越していった栃木県の岩舟に都内から電車で向かうシーン。大人にとってはたいしたことではないその距離が、貴樹にとっては果てしなかっただろうし、雪で電車が止まって動き出すまでが、永遠に感じられもしたでしょう。心理的にどれほど切実に結ばれたとしても、距離と時間に引き裂かれてしまう。そんな二人を描いたのが『秒速5センチメートル』という物語なのだと。逆に、種子島に暮らす花苗は、中学で引っ越してきた貴樹に恋をして、同じ高校に通い、一見、同じ時間を過ごしているように見えるんだけど、心理的な距離をどうしても近づけることができなかった。一人ひとり異なる時間を生き、それぞれに距離が生まれるのだということを繊細に表現するには、どんなにささいな感情の揺れも漏らさずつかむ必要がありました。その作業を重ねていった結果、気づいたら冊子ができあがっていたんですよね」
そしてその繊細な感情を、奥山さんはセリフではなく、役者の表情で映し出すことにこだわった。