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  • 家族 葉真中 顕/文藝春秋


    『家族』(葉真中 顕/文藝春秋)は、実際に起こった大量殺人事件をモチーフにした社会派サスペンス長編である。


    体中に痣がある全裸の女性が、交番に助けを求めてきた。彼女は以前も同じ交番に相談に来ていた。妹夫婦がある女に金を奪われたという。しかし、詳細を聞いた警察官は、暴行や脅迫などの刑法犯に該当する行為がないことを確認し、「民事不介入」を理由として彼女の相談に応じなかった。そして、変わり果てた姿で再び交番に駆け込んだ女は言った。私は暴行を受けている、そして自分も母親を殺してしまった、と。


    本作のモチーフとなった「尼崎連続変死事件」は、1987年の失踪事件に端を発し、2011年に表面化した連続殺人・死体遺棄事件である。長期間にわたって虐待環境に置かれた複数の家族が、親族同士で暴行・殺人といった犯罪に手を染めたことは、この事件の最たる特徴である。そして、複数の家族を恫喝や脅迫、暴力でコントロールし、財産を奪い、必要に応じて殺人を促していたのが主犯女性と、その親族である中核メンバーである。


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