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大正時代に誕生した、つらいサラリーマン像。そしてブラック労働の実態/なぜ働いていると本が読めなくなるのか③

2024年4月23日

  • 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆/集英社)第3回【全8回】

    「大人になってから、読書を楽しめなくなった」「仕事に追われて、趣味が楽しめない」「疲れていると、スマホを見て時間をつぶしてしまう」…そのような悩みを抱えている人は少なくないのではないでしょうか。「仕事と趣味が両立できない」という苦しみは、いかにして生まれたのか。自らも兼業での執筆活動をおこなってきた著者の三宅香帆さんが、労働と読書の歴史をひもとき、日本人の「仕事と読書」のあり方の変遷を辿ります。そこから明らかになる、日本の労働の問題点とは?『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、すべての本好き・趣味人に向けた渾身の作品です。


    なぜ働いていると本が読めなくなるのか
    『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆/集英社)

    「サラリーマン」の登場


     さて突然だが、あなたは『痴人の愛』を読んだことがあるだろうか?


     谷崎潤一郎が1925年(大正14年)に刊行した小説だ。数え年で15 歳の少女ナオミを自分好みの女性に育て上げようとする男性の物語である。この大正末期に世に出た小説の主人公は、実は「サラリーマン」であることをご存じだろうか。

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