
すっかり騙された。と気付いたと同時に、あまりにもあっけなく騙された自分をほんの少し恥じた。それなのに、どうしてだろう。どういう訳か頬がゆるむ。だって、この本が教えてくれるのは、恋愛の面白さ。とびきり面倒でどうしたって制御できない。そんな十人十色の想いに、つい思いを馳せてしまう。
そんな一冊が、『探偵小石は恋しない』(森バジル/小学館)。松本清張賞でデビューした新進気鋭のミステリ作家・森バジルの最新作だ。この本の衝撃ったらない。読み始めた時は、「ライトな読み心地のミステリ」だと思っていたから、油断したのかもしれない。クライマックスにかけて、世界が何度もひっくり返る。私はいくつの読み違いをしていたのだろう。いくつものミスリードを重ねていた自分に気付かされ、何度もハッとする。ああ、これはたくさんの罠が仕掛けられた本格ミステリだ。発売直後からSNSを中心に話題を呼び、発売からわずか7日で重版が決定したというのにも納得。今大きな注目を集めている、今まさに読むべき1冊なのだ。