
生霊(いきりょう)という言葉を耳にしたことがあるだろうか。これは、まだ生きている人の強い感情や念が、無意識のうちに自らの身体から抜け出し、他者に影響を及ぼすとされる現象を指す。死後の霊とは異なり、「生きながらにして霊となる」という特異性を持つ生霊は、人間の心や精神の力を象徴する存在として語り継がれてきた。
『みだりに憑かせてはなりません』(栗田あぐり/KADOKAWA)は、そんな生霊現象をきっかけに始まる恋愛模様を描いた、異色のラブコメディである。
主人公・須加原保は、イエスマンとして働き続けた末、心身のバランスを崩して療養中の27歳。現在は実家の神社に身を寄せている。そんなある日、就寝中に金縛りにあった保の前に現れたのは、正体不明の女の霊だった。毎晩、金縛りとともに現れる彼女に、恐怖と困惑を覚える保。