
雄大な自然、地平線まで続く畑、真っすぐな道路、そして整然とならぶ街区。北海道を訪れると目にするこれらの景色はしかし、たった百数十年前には一面原野であった。
『札幌誕生』(門井慶喜/河出書房新社)は、明治期に原野から人の手により作り上げられた北海道最大の「札幌」を軸に、この人工都市と関わった実在の人物たちを描いた歴史小説である。
第一話「開拓判官」では佐賀藩出身の島義勇を主人公に、明治2年(1869年)に開拓判官として北海道に着任した島が、札幌と銭函を結ぶ新道の敷設や、碁盤の目にならぶ街区の下地を作るなど札幌の礎を築くまでを描く。島は松浦武四郎と出会い、北海道開拓のための首都は「まんまんなか」である札幌の地でなければならないとして、札幌の開発に魅せられていく。佐賀では江藤新平らとともに起こした「佐賀の乱」で知られる島義勇だが、北海道では「北海道開拓の父」と呼ばれ、その人物評の振り幅の大きさから、幕末から明治における時代のダイナミズムを感じられる物語である。