※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年12月号からの転載です。

細田守が原作・脚本・監督を務める長編アニメーション映画『果てしなきスカーレット』が、11月21日より公開される。細田自ら執筆した原作小説は一足先に刊行され、話題沸騰中だ。この物語が2025年の「今」生み落とされた運命と必然について、お話を伺った。

ほそだ・まもる●1967年、富山県生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、91年に東映動画(現・東映アニメーション)へ入社。その後フリーとなり、2006年に公開した監督作『時をかける少女』が国内外の賞を総なめに。近作に『未来のミライ』『竜とそばかすの姫』など。
今は「生と死」という問題が身近なものとして感じられる時代
画(ルック)が違う。2Dのセル画と3DのCGが同一平面上でかつてない融合を果たし、全く新しいアニメーション表現となっている。紡がれていく物語は、かつてない壮大なスケール感。前作『竜とそばかすの姫』から4年ぶりの監督作となる映画『果てしなきスカーレット』は、細田守史上もっとも劇的な作風の変化が生じている。
「今回の作品で急に変わったというよりは、今までの作品ごとにいろいろな実験と挑戦があって、その積み重ねで少しずつ変化してきました。『時をかける少女』(2006年)は学校という身近な場所を舞台に、若い人特有の気持ちにフォーカスを当てた小さな作品でした。そこから始めて、作品ごとに徐々に舞台も大きくなっていき、人生のより大きな部分を見つめるようになり、映像的にも、それに見合うような表現ができるようになっていった。その果てに生まれたのが、『果てしなきスカーレット』だったんです」
過去作では現代の日本を舞台にしてきたが、今作は16世紀末のデンマーク。国王である父の仇への復讐に失敗した19歳の王女スカーレットは、《死者の国》で目を醒ます。そこでは国境はおろか、時空や生死をも超えた人々が集い、争いが絶えない狂気の世界。仇敵への復讐のチャンスがまだ残されていることを知ったスカーレットは、荒れ果てたその地を歩み出す。現代の日本からやってきたという看護師・聖と出会い、共に旅をすることになり──。
物語の着想が芽生えたのは、2022年3月頃。ロシアがウクライナに軍事侵攻し、コロナ禍の時代から戦争の時代へと、世界が変貌を遂げた時期だ。
「コロナ禍って、しんどい時期だからこそかえって世界中で協力し合っているような雰囲気が芽生えていたと思うんです。ところが、コロナが一段落した瞬間から戦争へとなだれ込んでいった。その落差もまた、衝撃だったんじゃないかと思います」