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「ズルい人」がはびこるこの世界では全員カモ? フェイクばかりの現代社会を生き抜く思考術とは

2024年4月27日

  • 世界最高学府で教える人心操作の授業 全員カモ「ズルい人」がはびこるこの世界で、まっとうな思考を身につける方法"
    『世界最高学府で教える人心操作の授業 全員カモ「ズルい人」がはびこるこの世界で、まっとうな思考を身につける方法』(ダニエル・シモンズ:著、クリストファー・チャブリス:著、児島 修:訳、橘 玲:解説/東洋経済新報社)

     あなたは騙されやすいだろうか。


     SNSによる噂、ディープフェイクで作られるニュース、謎のCM、私たちを騙す要素はそこかしこに溢れている。もはや全人類が、「騙される側」になっていると言えるだろう。『世界最高学府で教える人心操作の授業 全員カモ「ズルい人」がはびこるこの世界で、まっとうな思考を身につける方法』(ダニエル・シモンズ:著、クリストファー・チャブリス:著、児島 修:訳、橘 玲:解説/東洋経済新報社)は人がなぜ騙されるのか、どのような思考や推論のパターンが狙われていくか、認知心理学の視点から解説した本である。


     心理学部の教授と意思決定や注力を専門に研究する学者である著者2人は、「見えないゴリラの実験」で、イグ・ノーベル賞を受賞した。その実験とは、被験者はまず、ボールをパスし合う動画を見せられ、パスの回数を数えてほしいと指示を受ける。実は動画の途中、パスし合う人の中をゴリラの着ぐるみが横切っていたが、集中して数えていた人は大半が気づかなかったという結果が出たという。人は何かに夢中になるとどうも視野が狭くなりがちなようだ。


     冒頭の問いに立ち戻ってみよう。私は大丈夫と思っている人ほど危ない。冒頭の橘玲氏による解説にもある通り、ニュースで特殊詐欺の手口を見たとき、なぜこんなことで騙されるのかと不思議に思うだろう。しかし、もともと人間は騙されやすい性質がある。


    私たちは、はっきりとそれを否定する証拠が示されないかぎり、見聞きしたものが本当だと思い込む。この現象は「真実バイアス」と呼ばれている。


     人は聞いて、すぐに信じてしまう。せいぜい、後から時々確認する程度だそうだ。何かしら思い当たる節はあるのではないだろうか。これは脳みそのバグではない。もともと人間は目の前のことを信じてしまう傾向があり、大抵の場合、人は人が本当のことを話すと思っているのだ。


     この本では、4つの「ハビット」、4つの「フック」をテーマに、人の騙されやすさが実例と共に紹介されている。


    目の前に提示されていないものは何なのかを考える


     とりわけ最初の章である「集中―フォーカス」は、誰もが「ああ~!」となってしまうはずだ。霊媒師や占い師がなぜその人のことを当てられるのか、マジシャンはなぜ人を驚かせられるのか、その秘密(人間の傾向)がぎゅっと詰まっている。本の中で、「あなたが選んだカードが必ず消える」という実験があるので、ぜひ試してほしい。


    「真実バイアス」を持つ人間は目の前のことを信じやすく、見えないけれどもそこにあるものについてあまり考えない。


     本書では、シューズブランドがインフルエンサーのおかげで売上を伸ばしたこと、すぐれた起業家には大学中退者が多い、といった「逸話」を例に取り上げる。確かにそれは起こった出来事かもしれないが、インフルエンサーマーケティングに失敗したほかのブランドのことや、大学を卒業して成功した起業家(または、大学を中退しさらに事業に失敗した起業家)の存在は、ほとんど思い浮かばない。大切なのは「起こらなかったこと」を考えること。光が当たっていないところに何があるのかに思いを巡らせることができれば、うたい文句に踊らされることも減るだろう。


    結局「騙されること」からは逃れられない


     広告でよく提示される数字という根拠のあやふやさ、詐欺師がどうやって私たちに近づいてくるのか、実験やプレゼンでねつ造データはなぜバレるのか……世の中にはうんざりするほど、騙しのテクニックがあふれている。読み進めるうちに慄くほどだ。


     私は自覚があるが大変騙されやすいので、読んでいて身につまされた。詐欺や嘘、ちょっとした誇張などはついて回る。


     効果のないプチプライス・コスメを買って、がっかりするぐらいならまだ良い。投資や、住宅の購入など、大きな決断で騙されてしまえば、時には人生に傷が残るようなことにもなりかねない。ブレーキをかけて冷静に考えようとする、少なくともそのまま鵜呑みにしようとしない姿勢こそ、大切である。


     対処法も本書には書かれているので、少し安心してほしい。例えばデータに対して「ノイズはあるのか?」と問いかける、どこかで見かけたような気がしたら「なぜ心当たりがあるのか?」と自問する。ちょっとしたことでも、予防線、対処法に充分なり得るのだ。


    立ち止まって考えること、そして人生を楽しむこと


    「少し受け入れ、多く確認する」


     真実バイアスへの核となる考え方だ。会う人を疑ったり、全てを嘘だ、信じないと裏を読んでいたりしたら、到底暮らしていけない。何もかもを疑ってかかり、人生を狭めるのももったいない話だ。


     人生を楽しむために、まず知る。それから、頭から信じ込まず、確認することを心がけていこう。「全員カモ」の時代、頑張って生き延びたいものである。


    文=宇野なおみ

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