
第39回太宰治賞を受賞し、2025年9月に待望の文庫化となった『自分以外全員他人』と、その前日譚というべき『孤独への道は愛で敷き詰められている』に続く、西村亨氏の新作『死んだら無になる』(筑摩書房)が発売された。
本作は前二作に続き、世間を疎ましく思いながらも世間を意識してしまい、自己評価の低さからマインドが堕ちていくというループを繰り返しながら生きている、40代独身・柳田譲の物語だ。妬みや嫉妬、エゴといった日常生活で出会う小さな不満の種が柳田の心に蒔かれていくたびに、「これは自分の物語なのでは」と共感を抱かせる、ある意味でとても危険な小説である。この柳田の生き方に心を鷲掴みにされた読者があとをたたず、なんと『自分以外全員他人』Tシャツ(https://p-t-a.shop/products/pta-tanin-ts-001)が作られるまでの人気シリーズでもある。
生きれば生きるほど人生に向いていないと感じる柳田の行動は、なんとか生きながら一般社会と“無”の境界上に片足で立っているような危うさを感じるが、反面、他人との関わりに一生懸命に悩み熟考する姿を見るたびについ笑みがこぼれてしまう。