※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年12月号からの転載です。

「これまでの私はジャンルを意識して書いてこなかった」という町田さんが、1年で4作もの新作をリリースすることになった2025年は、自身の書く物語の可動域が広がった年だったという。
「ジャンルというものを初めて意識しました。『月とアマリリス』はサスペンスという枠組みのなかで書いた一作ですし、年末には、巫女姫や騎士が登場してくるファンタジー作品を刊行します。領域を意識することで新たに書けるものが見つかるのではないか、これまで書いてこなかった題材やテーマのなかに、自分がもっと熱中して書くことのできるものがあるのではないか、という思いがそこにはありました」
そんな町田さんのもとにやって来たのは、ホラー作品の執筆依頼。それは伊坂幸太郎さんの呼びかけで始まった競作によって物語を繋げる《螺旋プロジェクト》第2弾への参加依頼だった。基軸となったのは伊坂さんの短編『楽園の楽園』。
「これまでの自分がやらなかったことをしたい、と思いました。そこで、ホラーというジャンルにチャレンジしてみよう、と。伊坂さんから“何をしてもいいですよ”というお言葉をいただき、自分にとっての怖さとは? というところから構想をスタートさせていきました」
“スピババアがいなくなった”というひと言から物語は始まる。それを発するのは、九州の片隅にある南半里町で生まれ育った高校2年生の凛音。祖父の祥月命日に好物のまめもちを供えようと思っていたのに、和菓子店には閉店を告げる貼り紙。長年まめもちを作り続けていた店主は、スピリチュアルなことばかり言うババアだからスピババア。そんな凛音の軽快な語りに引き込まれていく。