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  • 春の星を一緒に 藤岡陽子/小学館


    「家族」という存在が、誰にとっても大切とは限らない。しかし、大切か否かにかかわらず、家族の死は重いものだ。看取るのも、看取られるのも、どちらも相応の痛みが伴う。それが命の重さであり、尊さなのだろう。


    『リラの花咲くけものみち』(光文社)で第45回吉川英治文学新人賞を受賞した藤岡陽子氏が、2025年8月、新たに『春の星を一緒に』(小学館)を刊行した。本書は、患者の痛みと真摯に向き合う医療者の日常を描くヒューマンドラマ小説である。


    主人公の川岸奈緒は、看護師として働きながら一人息子の涼介を育てるシングルマザーだ。元夫の不倫が原因で離婚をしたのを機に、京都府丹後の実家に帰省し、父親の手を借りながら生活を送る。涼介は素直で思いやりがあり、いつも母親の幸せを一番に考えている。離婚以来、二人は互いに寄り添い合いながら生きてきた。


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