ダ・ヴィンチWeb

マーブル館殺人事件 アンソニー・ホロヴィッツ (著), 山田 蘭 (翻訳)  / 東京創元社


「ほらね、まだこんな手もあるんですよ」と得意げな顔をしている作者の顔が思い浮かぶようだ。


『マーブル館殺人事件』(東京創元社)は英国の作家アンソニー・ホロヴィッツによる〈カササギ殺人事件〉シリーズの第三作である。第1作『カササギ殺人事件』と第2作『ヨルガオ殺人事件』はアラン・コンウェイという作家が書いた〈名探偵アティカス・ピュント〉シリーズの一作が作中作として挿入される一方で、編集者のスーザン・ライランドが現実に起きる事件に巻き込まれる様子が描かれるという二重構造の謎解きミステリだった。非常に手の込んだ物語の趣向に、アガサ・クリスティー作品を彷彿とさせる巧みな謎解きの技巧を組み合わせた作風は従来のミステリファンのみならず多くの読者を獲得し、英国の現代謎解き小説への注目を高める切っ掛けにもなったのだ。


そこで三作目の『マーブル館殺人事件』である。前二作で作中作ミステリの趣向は十分に堪能できたわけだし、流石にこれ以上は同じ趣向で書けないのでは、と思っていたところに三作目だ。なるほどこんな手があったのか、という物語が用意されており素直に感心してしまった。


  • 続きを読む