※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年12月号からの転載です。

死してなお暴力と簒奪が横行する《死者の国》で出会ったスカーレットと聖。時代も時空もこえてめぐりあった二人の旅がもたらすものとは……? 声優を担当した芦田愛菜さんと岡田将生さんにお話を伺いました。
──父を殺して王位を奪った叔父への復讐に失敗し、《死者の国》で目を覚ました王女スカーレットと、死んだ自覚もないまま《死者の国》をさまよううち、彼女と出会った現代の看護師・聖。お二人はそれぞれの役をどのように演じたのでしょう。
芦田 私が演じたスカーレットは自分と同世代の19歳の女の子ですが、中世の異国を王女として生きる彼女の根底に流れるものは、現代の私たちとまるで違うはず。最初にそう細田監督からお話があったので、まずは彼女と似た時代を生きた女性たちを学ぶところから始めました。
岡田 生きる時代によって、現実に対する向き合い方は全然違いますよね。僕は、舞台でハムレットを演じた経験があったので、スカーレットの感情の流れもなんとなく読みやすくはあったんですけど、なかなか演じるのが難しい役だろうなと思っていました。
芦田 課せられた責務や求められるふるまい、何よりスカーレット自身が「こうあらねばならぬ」とさだめている覚悟によるものなのか、現代の30~40代くらいの貫禄があるんですよ。ケイト・ブランシェット主演の映画『エリザベス』や、もともと好きで読んでいたジャンヌ・ダルクの伝記などを参考に、その強さを学ぼうと思っていたのですが、時折垣間見える心の揺れのほうに惹かれていって。確かに私たちとはとりまく環境も価値観も違う、だけど人として通じるところのある弱い部分も表現できたらいいなと思うようになりました。

岡田 その想いを隣で演じながら感じて、グッときていました。この世でもあの世でもない《死者の国》にたどりついてなお、叔父への復讐を果たそうとするスカーレットの叫びは、場面に応じていろんな色を見せるんだけど、誰かに怒りや憎しみを向けるときより、内に秘めていたものをほとばしらせた瞬間のほうが、胸を衝かれました。聖として、抱きしめてあげたいと心から思うほどに。
芦田 その想いが、岡田さんの声からも滲み出ていました。岡田さんの声はとても素直で、まっすぐ心に響くんです。もともと、物腰が柔らかく、いつもまわりに気を配ってくださる聖のような方だから、配役を聞いたときもぴったりだなと思っていたけど、重傷を負ったスカーレットを聖が助けてくれるシーンで、心の底から心配してくれているのが伝わってきたときには、私も胸を打たれました。そういう聖と一緒だから、スカーレットは強くなっていったんだなと納得もしましたし。