
音楽や料理などをテーマにした漫画や小説を読んでいると、音や味の想像が膨らみ、実際に聞いて味わっているような感覚を持つことがあるだろう。漫画『京の都の香の路』(霜月星良/KADOKAWA)は香り、つまり嗅覚に訴えかけてくる作品だ。京都を舞台に「お香」を中心に据えたヒューマンドラマが繰り広げられる。
実家の医院を手伝うために医学部を目指していた瀬戸大輝は、2度目の受験も失敗し途方にくれていた。そこで偶然、お香店「薫風堂」の男主人・栄薫と出会ったことで彼の運命が動き出す。薫風堂に招かれた大輝は、受験勉強で疲れ果てた体をお香が癒やしてくれたことに驚き、そして薫は大輝の鋭い嗅覚に驚かされる。かくして大輝は、これまでのぼんやりと持っていた医者になるという目標から、お香を使ったセラピストを目指すという明確な夢を見つけ、薫のもとで修業することになる。