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全国の書店員が「いちばん!売りたい」本を選ぶ本屋大賞を2025年に受賞し、累計40万部を超えるベストセラーとなった阿部暁子さんの小説『カフネ』(講談社)。弟を亡くした薫子が、弟の元恋人・せつなが勤める家事代行会社の活動を手伝いながら、「食」を通じてせつなと絆を深めていくこの物語は、今、多くの人の心を揺れ動かしている。「カフネ」とは、ポルトガル語で「愛しい人の髪にそっと指をとおす仕草」を意味する言葉であるが、この本を読むと、誰かにそっと頭を撫でられたような、懸命に生きてきた自分を優しく認めてもらったような気がしてくる。では、実際に家事代行を生業としている人たちはこの本をどう読んだのか。去る2025年10月29日、家事代行サービスのパイオニア企業・株式会社ベアーズの本社では、阿部暁子さんとベアーズ社員との座談会イベントが行われた。本記事では『カフネ』愛あふれるそのイベントの模様をレポートする。


(C)阿部暁子/講談社


▼5時間止まらなかった涙と10枚のファンレター


本イベントは二部構成で行われた。前半の第一部で行われたのは、阿部暁子さんと株式会社ベアーズ取締役副社長の髙橋ゆきさん、広報室室長の服部祥子さんによる座談会。『カフネ』の世界観と重ねながら、家事を取り巻く現状について語った。


そもそも今回のイベントが開催されるに至ったのは、ベアーズ広報室長・服部さんが阿部さんに送ったファンレターがキッカケ。服部さんは初めて『カフネ』を読んだ時、5時間近くずっと涙が止まらず、その思いをそのまま手書きで10枚ほどの手紙にしたためた。『カフネ』の何がそこまで服部さんの心を動かしたかといえば、この小説が「自分の中のあらゆる気持ちを代弁してくれた」ことに強く感動させられたのだという。


服部さんは、自身の子どもが1歳の頃、家事や育児、仕事に忙殺され、当たり前にこなすべき家事ができない自分に強い罪悪感を抱いていた。『カフネ』は「全てが中途半端になっているのではないか」と悩んでいたその時の自分を救ってくれた。そして、この本を読んだことで、服部さんは改めて家事というものがもつ力を感じたのだという。


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