ダ・ヴィンチWeb

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年1月号からの転載です。



『暁闇』と『金星』、二つの物語で構成される本のなかほど、『暁闇』の終章の扉に、湊さん自身の言葉が現れてくる。“(『金星』を読んだあとで読むことをおすすめします。)”。


「注釈のとおりに、その章を飛ばして読む方、そのまま読み進める方、双方いらっしゃると思うのですが、どちらでもいいんです。ただ、そう記しておくことで、二つめの物語『金星』を読み終えたとき、どちらの選択をした方もここに戻ってきてくれるのではないかなと。そこで、これまで見ていた景色がどう変わるか。本の終わりとは、必ずしも最終ページではない、ということにも思いを巡らせていただけたら」


驚きに満ちた趣向と企みを内包した一冊。ストーリーは、文壇の大御所作家でもある文部科学大臣・清水義之が、全国高校生総合文化祭の式典の最中、舞台袖から飛び出してきた男に刺され、死亡する事件がN県で発生したというニュースの記事から幕を開ける。逮捕された男の名前は永瀬暁、37歳。母親が多額の献金をしていた新興宗教「世界博愛和光連合(通称:愛光教会)」と清水大臣との関係を独自に突き止め、襲撃を決めたという。


「どこかのタイミングで、宗教と宗教二世に関わる話を書きたいと思っていました。宗教に入る人は特別な人というイメージを持ってしまいがちですが、普通に人生を送るなかで、ちょっと曲がったらそこへの道があったかも、ということに思い当たる人って多いと思うんです。特別な場所ではない、というところから物語を始めたく、入口は誰もがよく知る事件と重ねました」


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