
直木賞を受賞した連作集『ツミデミック』をはじめ、短編集『スモールワールズ』、長編『光のとこにいてね』などの代表作を持つ小説家の一穂ミチさん。人間の可笑しさや悲しみを繊細に紡ぎ、読者の心を揺らしてきた一穂さんの最新作『アフター・ユー』は、主人公が、突然いなくなってしまった恋人の秘密を追う恋愛小説だ。今回、「不在」や「喪失」をテーマに据えた理由や、小説を書く上で大切にしていることについて、話を聞いた。
失っても人生は続いていく。その先の物語を書きたかった
――『アフター・ユー』の執筆の出発点を教えてください。
一穂ミチさん(以下、一穂):スタートは主人公の人物像です。この作品の前に書いた長編が『光のとこにいてね』という女の子2人の物語だったので、今度はそれとはまったく違う、“さえないおじさん”を主人公に据えてみたいと思いました。青吾という中年の主人公にとって取り返しのつかないものと、それでも続いていく、失った後の物語を書いてみたかったんです。人生がもう上り調子にはならないであろう人が、旅を通じて少しずつ喪失を自分の中に落とし込ませていく物語になったのかなと思います。

――大切な人を失った後にどう生きるかというテーマは、以前から関心があったのでしょうか?
一穂:歳をとるにつれて、生き別れることや、死に別れることの重みをすごく実感するようになってきて。何歳であろうと明日も生きている保証は誰にもないのですが、自分も人生の折り返しを過ぎて、人生の秋を迎えたような気持ちになったことで、そういうさみしい話を書きたくなったのかなと思います。でも、さみしいって決して悪いことではないんですよね。