ダ・ヴィンチWeb

リラの花咲くけものみち 藤岡陽子 / 光文社


人に深く傷つけられた時、人間以外の動物に救われた経験を持つケースは存外多いと聞く。犬や猫、もしくは鳥やウサギなどの小動物は、言葉こそ話せないが、目線や態度で飼い主に寄り添い、揺るぎない温もりを与えてくれる。かつて私にも、そのような相手がいた。ロップイヤーの女の子と暮らしていた一時期、私にとって彼女だけが、本音を漏らせる相手だった。


藤岡陽子氏による長編小説『リラの花咲くけものみち』(光文社)は、獣医師を目指す少女の成長を描いた物語である。第45回吉川英治文学新人賞ならびに、第7回未来屋小説大賞を受賞した本書は、瑞々しい心理描写が群を抜く一作である。


主人公の岸本聡里は、江別市にある北農大学に入学が決まり、東京に住む祖母のチドリと離れて暮らすことに不安を抱いていた。聡里は極端な人見知りで、チドリの存在が唯一の心の支えであった。聡里の母は、聡里が小学4年生の頃に病気で亡くなった。母の死後、しばらくは父と二人暮らしをしていたが、やがて父が再婚し、そこから聡里の生活は一変した。


  • 続きを読む