
「逃げる」という言葉には、どうしても後ろめたさや弱さのイメージがつきまとう。しかし『夜逃げ屋日記』(宮野シンイチ/KADOKAWA)は、逃げることを否定せず、むしろ新たな自分を見つけるための力強い一歩として描いたコミックエッセイ。著者の宮野シンイチ氏が自身の体験取材を通じてつづるこのシリーズは、単なる裏稼業の記録にとどまらず、人間の尊厳と再生の瞬間をすくい上げる作品だ。
物語の中心となるのは、特殊な引っ越し業者「夜逃げ屋」。夜逃げ屋とは、DVをするパートナーや毒親、ストーカー、モラハラなどから逃れたい人々を、安全かつ秘密裏に引っ越しさせるプロ集団である。外からは普通に見える家庭の裏側で、さまざまな事情を抱えた依頼者たちが“最後の手段”として夜逃げを選ぶ瞬間に立ち会い、その現実と痛みを作者自身が体験しながら描き出す。