ダ・ヴィンチWeb

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年3月号からの転載です。



楽しかったイベントもおいしかったごちそうも、SNSで気軽に発信できる時代。でもある時、松井さんが旅行の思い出をシェアしようとしたところ、身近な人から思いがけない言葉をかけられたという。


「『それ、幸せ自慢になってない?』と言われて、びっくりしたんです。確かにSNSがなかった頃は、楽しかったこと、幸せを感じたことは家族や友達と会った時に『この前こんなことがあってね』と分かち合うものでしたよね。そう気づき、今回のエッセイでは“幸せ”や目に見えなくて形のわからない感情について書いてみようと思いました」


タイトルの『ろうそくを吹き消す瞬間』は、松井さんがもっとも幸せを感じるひと時。


「みんなが注目する中、バースデーケーキのろうそくを吹き消す瞬間は、幸せに包まれる素敵な時間です。でも、その瞬間を写真に切り取ることはできず、その場にいる人の目と記憶に残すしかありません。だからこそ、より大切に感じられるのだと思います。一瞬で消えてしまうけれど、心に留めておきたいものはある。そんな思いをタイトルに込めました」


松井さんにとって3冊目のエッセイ集だが、今回は初の全篇書き下ろしに挑戦。締切や原稿の分量が決まっている連載と違って自由に書けるが、その分、不安もあったという。


「突然、大海原に船で漕ぎ出してしまったような気持ちになりました。ただ、文字数の制約がないので、1ページ未満の短いエッセイを差し込んだりして、一冊の中でリズムを作ることもできて。漕ぎ出した時は『どうしよう、泳ぎ方も船の進め方もわからない』と思いましたが、最終的に自分が思い描いた目的地にたどりつけて、達成感を覚えています」


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