ダ・ヴィンチWeb

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年3月号からの転載です。



優れた戯曲を書く演劇人の中には、小説でもその才能を発揮する者が少なくない。柳美里、本谷有希子、山下澄人などが並ぶ「劇作家にして小説家」の系譜に、今回、ピンク地底人3号の名が新たに加わった。インパクト大の筆名は、大学在学中に結成した劇団名に由来する。京都を拠点に劇作家・演出家として活動を続け、22年には「華指1832」で岸田國士戯曲賞最終候補にノミネートされた注目の劇作家が、初小説「カンザキさん」で第47回野間文芸新人賞を受賞した。


「そもそものきっかけは、文芸誌の編集者からエッセイの依頼をいただいたことでした。エッセイって身辺雑記ですけど、せっかくならちょっとだけ嘘ついて書こうかなと半分フィクションのようなものを書いて送ったところ『もし小説を書きたくなったら言ってください』と感想をもらえまして。でも僕は締め切りがないと書けないので、じゃあ二ヶ月後までに送りますと約束して書き上げたのが『カンザキさん』です」


物語の舞台は、かつて自身もアルバイトをしていた配送業界だ。家電量販店の下請けの配送会社に就職した「僕」は、そこでパワハラの権化のような先輩社員に出会う。


「だいたいの小説家の一作目って私小説的なものになりますよね。僕も初めて書くのなら自分のことをと考えたときに、以前からずっと書きたかった配送会社のことが思い浮かびました。今はハラスメントがいけないこととして明確に定義されていますが、現実にはそんなルールが一切通じない人もいる。肉体労働を通してそういう人を描くことができたら面白い小説になるんじゃないかなと考えました」


  • 続きを読む