※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年3月号からの転載です。

本の帯には、「始まりの文学」とある。乃木坂46のメンバーになるまでの15年と、アイドルになってからの9年間。家族をはじめ、メンバーに友人、恩師、憧れの存在など、多くの人たちとの交流の中で、彼女には常に「嫌われたくない」という葛藤があった。人との関わりの中で生まれた感情は、澄み切っているときもあれば、濁っているときもある。その感情のグラデーションを、余すところなく言葉に落とし込んだ久保史緒里初の著書『LOST LETTER』。その文章は、確かに“エッセイ”というよりは“文学”と呼んだほうがしっくりくる。“読者への手紙”という体裁で書かれている文章はすべてが赤裸々なのだ。
「ラジオパーソナリティのお仕事も長くやらせてもらっていたので、元々、自分のことを話す分には全く抵抗はありませんでした(笑)。アイドルをやっているといろんなことが起こります。その事柄に対しては常に自分なりの言葉を発してきたほうだと思いますし、特にファンの方に隠しごともなかった。でも、卒業を決めたときに、『あんなこともこんなこともあったけど、ちゃんと言ってなかったな』と思うことがいろいろ思い浮かんで。本という形で、自分の思いの丈を全部出し切ることができたら、本当の意味でアイドルから卒業できるんじゃないかと思ったんです」
『LOST LETTER』を、シンプルな「アイドルの回顧録」だと思って手に取ると、その期待はいい意味で裏切られるだろう。子供時代の人間関係、親元からの巣立ち、新しいコミュニティに入っていく難しさ、自意識との戦いなど、あらゆる局面をサバイブしていく描写がリアルで、共感とヒリヒリ感がないまぜになる。