※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年4月号からの転載です。

エンターテインメントと純文学の垣根を越えて活動してきた古谷田奈月の最新刊『うた子と獅子男』は、千葉県・松戸を舞台に、若い男女二人の運命的な出会い(ボーイ・ミーツ・ガール)を描く長編小説だ。物語の着想は、この3月に文庫化されたばかりの『神前酔狂宴』(第41回野間文芸新人賞受賞作)を執筆中に芽生えたという。
「『神前酔狂宴』は私が神社の披露宴会場で働いていた時の経験を元にした話だったので、書きながら“働くって何なんだろう?”と考えたり、これまでの職歴を振り返るきっかけになりました。その時に、大学生の頃に2年間ぐらい松戸の居酒屋でアルバイトをしていた記憶が浮かび上がってきたんです。当時は千葉の我孫子の実家から大学に通っていたので、松戸は近いと言えば近かったんですが、地元の友達はたいてい松戸よりおしゃれな柏でバイトをしていて。“どうして松戸?”とよく言われました(笑)。でも、何の繋がりもない街の居酒屋で、バリバリ体育会系のノリの人たちに囲まれて働いていた時間は、意外と楽しかったし意外と馴染んでいた。それ以前の自分ともそれ以降の自分とも繋がりがないように感じられる、あの不思議な2年間っていったい何だったんだろうと引っかかっていたんです」
その不思議さと、小説を書くことを通じて向き合ってみたのだ。
「働くということに対して感じていた新鮮さだけではなく、10代の終わり頃、自分の中にあったいろいろな感覚を登場人物たちに託して書いてみようと思いました」