
又吉直樹が6年ぶりとなる小説『生きとるわ』を上梓した。かつて高校の日本映画研究部で青春期を共に過ごした岡田や横井たちの38歳の年に起こった出来事を中心に描いたこの作品は、「人生の方向が確定しつつある40歳を目前に道を踏み外したとして、それでも人は幸せにいていくことができるのか」というテーマを含んでいる。今回、又吉と親交深く、かつ岡田や横井と同世代である、詩人・黒川隆介とタレントの戸塚祥太(A.B.C-Z)が、又吉を囲んでこの物語について語り合った。
「フッてくれる」って言ってる時点で、異常者ですね(戸塚)
戸塚祥太:又吉さん、『生きとるわ』のご出版おめでとうございます! すごく面白く読ませてもらいましたが、ただ面白いだけじゃなくて、「人間関係の指南書」みたいだなと思いました。人との付き合い方とか、距離感の取り方とか……もし自分の近くに横井みたいな人がいたらどう対処すればいいのかとか。あるいは僕自身が岡田のようにならないためにどうすればいいのかとか、そういったことも勉強になるなと思いました。僕、39歳で読ませてもらったんですけど、もっと早く読みたかったです。
又吉直樹:指南書っていうふうに言ってもらえるのはすごくありがたいですし、面白いです。僕が人間関係の正解を知ってるわけじゃないんですけど、物語を描きながら、「予定調和のようにはいかないよな」と痛感したんです。人生には、小学校のときに聞いた道徳とか倫理みたいなものが全く役に立たない瞬間があるな、と。僕の中の基準として、倫理みたいなものを置いてるんですけど、それでは対処しきれないような人間関係ってあるなっていうことはずっと考えてきたんです。これまでの作品もそうなんですけど、今回は特にそういうことを考えて書きながら、少しずつ「こういうことなのかな」っていうのを掴んでいった気がします。
黒川隆介:僕は作家には2パターンいると思っていて、「書かないといられない人」と「書くことが好きで書いている人」。そういう中で、自分の生き血で書いている作家っていうのが、この現代で絶滅危惧種をすり抜けてまだ生きてたんだっていう感覚が、読み終えたときにまずありました。最近、物書きの端くれとして「純文学」って言葉がすごく遠くなっていた感覚だったのですが、現代の純文学のヒーローが現れたなと感じました。
又吉:ありがとうございます……。生き血で書いてるっていう部分について「なんでかな?」と考えると、普通に生活している中で、自分のやりたいことがいつの間にかできなくなっているような感覚があって、それが関係しているのかもしれないです。10代の頃は行きたくないところには行かないとか、もっと自分勝手だったんです。それがだんだん、「人を傷つけたくないな」とか「迷惑をかけたくないな」と思ってバランスを取り始めるようになっていった。もちろん自分自身の要求に応える形で社会性を帯びていった結果なわけだから、全く悪いことではないとは思うんです。また、そうすることにストレスも感じなくなってきているから楽しく過ごせてもいます。でも、どこかでそれが積み重なってきたときに、何かがおかしいぞというか、何もほんまのことを言ってない気がするなって感じるようにもなった。僕は、小説という表現だけは嘘をつかずに自分の思っていること考えていることを反映させられるっていう感覚がすごくあるんです。そういう意味で言うと、僕の中で「生きる」ということと「書く」ということが一致するというか、とても近いのかなって感じていますね。