
音楽評論家の萩原健太さんが親しかった大滝詠一さんの素顔に迫る『幸せな結末 大滝詠一ができるまで』(文藝春秋)が、発売前に早くも重版決定と大きな話題だ。1991年に行われたロングインタビューを中心に編まれた本書は、とにかく巧妙な語り口が魅力。大滝ファンにはたまらない一冊にどんな想いをこめたのか、著者の萩原さんにお話をうかがった。
●すごい人。でも「しょうもない人」だったのも魅力
――「そろそろかな」と本書を書いたとのことですが、なぜ今だったのでしょう。
萩原健太(以下、萩原):本当は何もないときにスッとこの本だけ出したかったんですが、なかなかそういうタイミングも見つからなくて。昨年末に13回忌を終えましたし、僕自身も大滝さんが亡くなった年を遥かに越えてしまっているし、そういうことも含めてそろそろちゃんとまとめたいと思ったんですね。
――喪失感が一段落したというのはあるんでしょうか?
萩原:あんまり一段落はしないですし、今でもそこに(大滝さんが)いそうな気はしているので、気持ちに一区切りがついたわけでもない。ただこのインタビューは本当に古いものだし、やっぱりちゃんとまとめておきたいという気持ちはずっとありました。それに最近、大滝さんがすごく神格化されて崇められる感じなのが気になっていて。もちろんそれだけの価値があるすごい方なんですが、同時にくだらないこともたくさん言う「しょうもない人」でもあって。生前はラジオなんかでそういう個性はずいぶん伝わっていましたが、亡くなってしまうとそういう機会もないですから、大滝さんの飄々とした感じがどんどん薄れてしまっている気がするんです。音作りがすごかったのは真実だとしても、そこの面ばかりが持ち上げられると大滝さんの全体像とはちょっと違うというか、「あんなくだらないことを言っている人なのに、あんなすごいのを作っていた」という、その全体像みたいなものをなんらかの形で世の中に残して共有したかったんです。
――確かに本書の大滝さんはジョークもたくさんお話しされていますね。
萩原:ほんとしょうもないこととか、くだらないことをいろいろおっしゃるんですよ。実はそこが音楽にも通じるポイントで、「くだらないことをいっぱい集めて構成していくと、ものすごくキュートでポップなものが仕上がっていく」というね。大滝さんの喋りを体験したことがない方にも、その感じをなんとなく味わってもらえたら嬉しいですし、だから大滝さんのリズムというか口調をちゃんと伝えること、独特の言い回しを活かしたりすることには一番気を使いました。今回、僕の著書として出たのは嬉しいんですが、基本的には大滝さんの言葉をあの口調のままで届けたい、みんなでそれを楽しめたらっていう気持ちが一番です。