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エピクロスの処方箋 夏川草介/水鈴社


人は必ず死ぬし、医療は万能ではない。そんなことは誰だってわかっているはずなのに、人はなぜか、自分や大切な人だけは別枠だと考えてしまう。医師だって人間なのだから、すべての患者を完治させ、命を救うことだってできない。それもわかっているけど、自分事になると冷静ではいられない。だからこそ医師というのは救うことと同じくらい、死に向き合わなくてはいけない仕事なんだなと、『エピクロスの処方箋』(夏川草介/水鈴社)を読んでいると、はっとさせられる。


本作は映画化が決定した『スピノザの診療室』(同)の続編で、「2026年本屋大賞」にノミネートされた、終末医療に向き合う医師・雄町哲郎をめぐる物語である(帯にも書かれているとおり、本作のみを読んでも楽しむことができる)。


もともと哲郎は大学病院で将来を嘱望されてきた内科医だったのだが、若くして妹が亡くなり、たったひとりの家族を失った小学4年生の甥・龍之介を引き取るために、地域病院で働くことを決める。難しい手術の成功や論文の発表が実績となり、「治す」ことや「技術を向上させる」ことに目が行きがちな大学病院と違って、地域に密着した病院では、死を待つしかない高齢者と向き合う機会も増える。そのなかで哲郎は、いわゆる看取りの医療とはまた違う、患者に本当に寄り添う医療を通して、医師であることの意味を追求するようになっていくのだ。


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