ダ・ヴィンチWeb


毎日の忙しさに追われて生きていると、ふと立ち止まり、この繰り返しの日常から離れてみたくなるときはないだろうか。『おばけのおいしいひとり旅』(のもとしゅうへい/KADOKAWA)は、都心の大学に通う「私」が、今まで流されるままに生きてきた自分を、小さな旅とその先のおいしいものとの出合いをきっかけに見つめ直していく物語だ。


ある春先からインターンシップに参加した「私」。しかし働くことに対して前のめりな周りの空気についていけず、心も体も疲れ切っていた。ある日の帰り道、眠って電車を乗り過ごした「私」は、見知らぬ駅のホームのベンチで自分の将来に不安を感じながらまた眠ってしまう。するといつの間にか頭から大きな布をかぶっているような、おばけの姿になっていた。


とはいえ本作はファンタジーではなく、先が見えず、どこにも居場所が見つけられず、地に足のついていない「私」の内面をおばけとして表現したものだ。おばけになった翌朝、「私」はふと思い立ち、インターン先には行かず電車に乗り続けて終点の駅に降り、その街にあったレトロな喫茶店に立ち寄る。注文したピザトーストを食べながら、これまで必要以上に自分を追い詰めてきたことに気づく。それからは、実家から送られてきた野菜で料理を作ったり、気になっていた近所のラーメン店に行ったりなどして、そのときそのときの心のままに行動し、自ら狭くしていた視野や考え方を徐々に広げていくのである。


逃げることは恥ずかしいことと思いがちだ。しかし無理をしてしがみついていると、いずれ自分を壊して取り返しのつかないことになるかもしれない。人生の選択肢はひとつではない。そんな当たり前だけど、見て見ぬふりをしがちなことを優しく教えてくれる作品だ。


文=nobuo


  • 記事一覧に戻る