※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年5月号からの転載です。

「この物語はフィクションであり、実在する人物、団体とは一切関係ありません」
本書では、そんなよくある注意書きに以下の一文が続く。
「しかしながら、主人公が直面する問題や葛藤、迷い、あるいはそこで得た喜びや希望などは、作者がライターとして活動してきたなかで実際に体感したものを下敷きにしています」
そう、『その手は明日を紡ぐために』は、小説家、エッセイスト、そして『ダ・ヴィンチ』などでライターとして活躍する五十嵐さんの半自伝的小説だ。出発点となったのは、ライターのお仕事小説を書きたいという思いだった。
「自分が働く業界を舞台にした作品って、気になってチェックしますよね。出版業界にも『校閲ガール』や『重版出来!』のような名作がありますが、ライターが主役の小説は意外となくて。それに、ライターは誤解の多い職業です。日本語が書ければ誰にでもできると思われがちですし、実際『駄文で金稼げていいっすね』なんてコメントをもらったことも。でも、ライターの仕事は取材して原稿を書くだけではありません。例えば作家の新刊インタビューなら、対象となる作品を読むだけでなく、過去の著作、インタビュー記事、SNSを読み込んで入念にリサーチします。決して誰にでもできる簡単な仕事ではありませんし、実際、僕の周りにいるライターさんたちは必死に努力をしています。こうした実態を伝えることで、ライターへの偏見をなくせたら、と。創作ではありますが、主人公の心の動きだけは現実に即して書きました」